2016年10月13日

「錦繍」読みました。

人に勧められなければきっと読まなかっただろうなと思う。
わたしにとって現代作家の作品というのは、何故だか敷居が高いのだ。
この「錦繍」という作品は、秋をテーマにおすすめしてもらったものである。加えて、最初の一節に注目して本を読むようになったきっかけの作品であるということだった。

物語は秋の風景から始まる。
かつて夫婦だった男女の予期せぬ再会から、止まったままだった時計が動き出すように、二人は書簡のやり取りを重ねていく。
互いに秘めたまま伝えるつもりもなかった過去を綴りながら、止まったと思っていた時間は確実に流れ、そして自身もその中で変化していたことに気づいていくのだ。

主人公の二人は、結局ずっと愛し合っていて、そしてそれはきっとお互いにどこか信じている部分があったのだろうと思う。
でも壊れてしまった関係を再び繋ぐことはもう出来ず、分かれてしまったそれぞれの人生に踏み出すきっかけもないまま、深くえぐれた傷から血が流れ続ける。そして傷の痛みに顔をしかめながら、時の流れに身を任せる10年だったのだ。
けれど蔵王での再会をきっかけに、それぞれが封じ込めた過去を手紙によって生き直すことで、次第に血は止まり、傷は少しずつ塞がっていく。
傷跡は消えないけれど、時にこの傷跡を懐かしみながら、二人はそれぞれの未来へ繋がるいまを生きていくのだろう。


終わりとともに始まっていた。
その繰り返しが生きることであり、過去、現在、未来と紡がれ続ける生命のからくりの中では死もまたひとつの生の事象であるのだと。
赤々と燃える生命の力強いエネルギーと、次第に色を失っていく物寂しさを同時に見せる秋。
散っていく命、生まれ変わるための準備、生命の蘇生、そういうものが「秋」という季節に込められているような気がした。
posted by USA at 21:18| Comment(0) | 読書 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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